人材不足の原因と対策|日本における人手不足が深刻な業界とは?
日本の中小企業は人手不足に悩まされており、業界ごとの格差が深刻です。
人手不足の背景には少子高齢化や職場環境などが大きく関係しています。
本記事では会社の人手不足問題に悩んでいる方に向けて、人手不足が深刻な業界や解決方法、人手不足を解決した事例についてお伝えします。
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日本における人材不足の主な原因
日本における人材不足の主な原因として、以下の4つが挙げられます。
- 生産年齢人口の減少
- 求職者の大手志向の増加
- コロナ禍の影響
- 終身雇用制度の終焉
それぞれ詳しく説明します。
生産年齢人口の減少
少子高齢化が進んでいる日本の人口は、2008年をピークに減少傾向となっています。
総務省の発表によると、2060年には総人口が9,000万人までに増加し、65歳以上の人口が40%近い水準になるといわれています。
これにより、生産年齢人口(15歳〜64歳)が減少することで、労働力の減少も考えられています。
この状況下の中で、企業は新しい人材獲得競争に勝ち抜く必要があるでしょう。
求職者の大手志向の増加
新型コロナウイルス感染症の影響拡大により、求職者の中では安定志向の高まりから、大手企業を志望する人が多くなりました。
マイナビが発表したデータによると、企業を選択する際の基準として「安定している」を選んだのが48.8%という結果が出ました。
これは2001年から開始された調査のなかで最も高い割合です。
このことから、求職者の多くは安定性のある大手企業を求める割合が高いことが明らかになっています。
参考:マイナビ「2022年卒大学生就職意識調査」
コロナ禍の影響
新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの企業に影響が及びました。
実際、有効求人倍率も下がっており、人手不足の現状に悩んでいる企業もあります。
特に社会生活維持に欠かせない医療、小物、物流に関わる「エッセンシャルワーカー」は新型コロナウイルス感染症によって需要が増えています。
今後の働き方のスタンダードが変化し、さまざまな業界で消費者との付き合い方が変わってくる可能性があり、業界の人手不足にも影響すると予想されています。
終身雇用制度の終焉
終身雇用とは、企業が正規雇用従業員を定年まで雇用する制度のことをいいます。
年齢や勤務年数などを考慮して資金や役職を決める「年功序列型」とともに、日本における雇用制度の特徴ともいわれています。
終身雇用制度の多くは年功序列とともに運用されるため、従業員の年齢が上がることで給与をその分多く支払う状況になります。
この制度により、従業員の経験やスキルなどに関係なく支払う必要があるため、人件費が多くかかってしまいます。
このような問題から、終身雇用制度による人件費の支払いを避けようと、企業側は非正規労働者を雇う傾向があります。
中小企業における人材不足が深刻
株式会社リクルート「第37回 ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)」では有効求人倍率を発表しており、2021年も前年に引き続いて1倍を超えていることから、人材不足の状況は続いています。
有効求人倍率とは、求職者1人につき何件の求人があるのかを表した数値のことです。
算出した数値が1倍を上回ると求職者よりも求人数が多いことになり、人材不足という状況だと判断できます。
このことから、中小企業における人手不足は、深刻といえるでしょう。
業界別の人材不足傾向
業界別の人材不足傾向を紹介します。
- 建設業
- 製造業
- 情報通信業(IT)
- 運輸業
- 小売業
- 医療福祉
以下にて、詳しく説明します。
建設業
建設業界の人材不足は深刻です。
人材不足の原因には、肉体労働など体力的にきつい仕事を敬遠する若者層の就職率が低いことが挙げられます。
また、建設業は残業が多かったり、週休2日制の条件が少ないなど厳しい労働環境であるのに対し、給与水準はほかの業界と比較すると低めである理由も若者離れの原因となっています。
一方で技能労働者の高齢化は進み、10年後には技能労働者の3割以上が退職すると予想されています。
若者層の建設業界離れとともに、さらなる人材不足が予想されるでしょう。
製造業
人材不足の原因として、少子高齢化による労働力人口の減少とともに、東京郊外といった都市部への転入が増え続けている背景があります。
製造業は土地の安い地方に工場を設置している企業が多いため、人口の流出によって人材確保が難しい状態に陥っています。
また、多くの人から化学製品や油汚れによる臭いや汚れやすいといったイメージを持たれています。
実際には工場によって違いがありますが、イメージが定着することで人材が集まりにくくなっているといえるでしょう。
情報通信業(IT)
情報通信業(IT)の進化・発展に伴い、市場での価値が拡大していることから需要が追いつかない状況です。
主にエンジニアが不足しており、高度な技術が要求される分野での人手不足が目立ちます。
そして、エンジニアの人手不足が予想されるとともに、高いレベルの業務内容についていけない従業員の増加も予想されています。
業務の進化・発展することで仕事についていけない、就業できないという人が増加するのは、ほかの業種でも予想されることであるため、人材不足とともに新しい対策を考える必要があるでしょう。
運輸業
ネットショッピングの普及により運送業界の需要は年々高くなっています。
しかし、ドライバーの高齢化と若者層の人手不足が目立っている現状です。
過酷な長時間労働や低賃金が原因として挙げられ、再配達の問題もドライバーへの負担になっています。
人手不足の中で、増加する荷物を処理するには、規制時間を通過して対応しなければならないのが現状です。
小売業
小売業には幅広い事業がありますが、勤務で共通していることに対して「長時間労働」「休日が少ない」「給与が少ない」などが挙げられます。
実際に、2019年1月に株式会社帝国データバンクが発表した「人手不足倒産の動向調査」によると2018年の小売業は建設業、サービス業、運輸・通信業に次いで4位の結果でしたが、前年比増減では約1.8倍で、全企業の中でも最下位となりました。
参考:株式会社帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査」
医療福祉
医療福祉業でも人材不足が進行している状況です。
少子高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響により医療福祉の需要は増加する一方で、人材の供給が追いついていない状況です。
また、慢性的な人手不足で従業者への負担は重く、それが離職につながるという悪循環に陥っているのです。
退職する原因として、需要の高いわりに給与水準が低いことや、待遇が悪い、仕事がきついなどネガティブなイメージが定着していることが挙げられます。
人材不足の対策方法
人材不足の対策方法として、以下の3つが挙げられます。
- 人員配置の見直し
- 業務フローの見直し
- BPOの活用
対策法について、それぞれ詳しく説明します。
人員配置の見直し
人員配置の見直しをすることで、人手不足の解消が期待できるでしょう。
人員配置の見直しを行うことで、さまざまなメリットを得られます。
・早期退職の防止
・作業効率がアップする
・組織の活性化
・人件費削減になる
・従業員のストレスを軽減できる
作業効率のアップや人件費削減にもつながるので、適切な人員配置を行いましょう。
業務フローの見直し
業務フローの見直しを行うことで、必要な業務目的に適した業務を効率化する以外にも、作業の品質を向上させることもできるため、結果的には会社の信頼性向上にもつながります。
人材不足を対策するのには、さまざまな過程を「見直す」ことが重要でしょう。
BPOの活用
BPOとは、外部に専門的な業務を委託すること支援サービスのことをいいます。
これにより、従業員が自社のサービス開発などに集中できるというメリットがあります。
BPOを行うにあたって、業務設計は重要です。
外部委託する領域と自社で取り組む業務領域の切り分けを行い、属人化・形骸化した業務を発見できます。
BPOを導入することで、業務フローを改善し、業務効率化が実現できます。
人材不足による問題を解決した事例
実際に、人材不足問題を解決した以下の事例を紹介します。
- 【宿泊業】株式会社下部ホテル
- 【建設業・不動産業】有限会社スタプランニング
- 【繊維工業】高木綱業株式会社
- 【IT関連】株式会社ナユタ
実際の事例は参考になるかと思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
【宿泊業】株式会社下部ホテル
〈背景・きっかけ〉
旅館業のため、接客スタッフを中心に中抜け勤務(朝食勤務後6 時間休憩をはさみ、夕食勤務)が多かった。始業から終業までの拘束時間が長く、休み時間が変則的なため、ゆっくりと休めない、家族と生活リズムが合わないなどの不満が出ており、社員満足度の低下につながっていた。
また、不規則な勤務時間から求人募集を行っても人が集まらず、人手不足となっていた。
〈挑戦したこと〉
・マルチタスク化への取組
接客・フロント・内務等の部署を「サービス部」というひとつの組織に統合し、接客係が喫茶・売店業務も兼務する等、各人が複数の業務を行うこととした。
最も人手の必要な食事提供業務は、サービス部以外の総務・予約等の部署も含む社員全員でカバーするようにした。
マルチタスク化に当たって、社員の意識改革も必要だった。『これからの旅館業は、縦割りではなく多様な業務を行うことが当たり前』という意識を根付かせ、『導入によって年間の休日数が増える』という社員のメリットも併せて説明し、協力を仰いだ。
・負担の多い中抜け勤務の廃止とシフト制の構築
原則として中抜け勤務を廃止し、全社的に早番、中番、遅番のシフト制で対応する仕組みを構築した。
また、時間帯ごとの業務量の平準化を進めるため、お客様の対応の少ない昼間の時間帯には客室清掃など一般的に旅館が外注している業務を自社で行う、といった工夫をしている。
〈取組の結果〉
マルチタスク化により、社員満足度が改善
マルチタスク化により、繁忙期でも増員することなく顧客対応できるようになるとともに、人件費を上げることなく中抜け勤務の削減に成功した。
中抜け勤務は、閑散日は0名、繁忙日でも2名程度までの対応に減少し、社員満足度改善に寄与した。
残業時間も減少し、人件費は2018年7月~ 11月までの5か月で前年比300 万円減、人件費率が1.4%低下した。
マルチタスク化により、お互いの業務をカバーできる体制となったことで、年間休日は10 日程度増やすことができた。
【建設業・不動産業】有限会社スタプランニング
〈背景・きっかけ〉
社員が夜中まで働き、月の残業が180時間を超える社員も少なくなかった。
精神的・肉体的に疲れきっており、ピーク時は社員数30人に対して1年間で10人近くが退職する高い離職率だった。
2012年に中核社員の相次ぐ退職と、女性管理職の妊娠が重なり、働き方を見直すきっかけとなった。
〈挑戦したこと〉
挑戦したこと
・受注基準の見直しと業務の平準化
収益や作業工程、納期等の社内の受注基準を見直し、高効率・高収益な案件や、工期が長く社員の休み等も考慮できる案件を選別し、受注することにした。繁忙期の受注は時期をずらす交渉を行い、無理のない納期を設定した。
社員の負担軽減のため、時短で働きたい主婦層を採用。既存業務を難易度や作業に必要な日数等から業務を細分化し、社員の業務量や本人の希望などのバランスを考慮して担当業務を決められるようにしている。
・残業や休日出勤の届出
事務所の鍵を社員に預けていたことも残業や休日出勤の原因であると考え、全員から鍵を回収した。
残業を届出制とし、残業を減らせるよう、社長が業務内容の確認や指示をするなど、コミュニケーションを増やした。
・有給休暇取得奨励日を設定
社員が有給休暇を5割以上消化することを目標に、取得奨励日を月3日ほど設けて、取得を促している。
〈取組の結果〉
・残業時間の削減
残業は月4時間程度に減少。取組初年度は赤字となったが、翌年度から持ち直し、取組前より少ない社員数・少ない残業時間で、取組前と同等程度の利益を維持できている。
利益を維持し、働きやすい職場を作ることができたことが、会社全体の自信となっている。
・多様な人材の活躍と定着
これらの取組により、子育て中の女性や高齢者など、様々な社員が希望するペースで働けるようになった。
出産や育児を理由とする退職がなくなり、人材が定着するようになった。
【繊維工業】高木綱業株式会社
〈背景、きっかけ〉
高度なスキルを有する人材の不足
労働力としての人手の確保はできていたが、高度な技術を有し将来の幹部候補となるような中核人材が不足していた。
同社が求める人材からの応募がなかったため、高度な技術を有する既存の社員が、できるだけ長く活躍しノウハウを蓄積できるような会社作りが必要だと感じていた。
〈挑戦したこと〉
・シニア人材の積極的雇用
既存の高度な技術を有するシニア人材は、作業速度は低下するものの若手より高品質な製品を製造できるため、長く働いてもらうための制度を整えた。
具体的には、それまで定年年齢を60歳としていたが、本人が希望し、働き続けられる限り、再雇用契約するようにした。
健康面においては産業医との連携をすすめている。
再雇用者の勤務形態は、フルタイムに限らず、週3日勤務、短時間勤務などを選択できるようにし、ライフスタイルに応じて自分のペースで働いてもらえるようにした。
・不必要な時間外労働の削減・休みやすい風土づくり
時間外労働は、発生させないことを原則とし、時間外労働が必要となる場合は、所属長が許可(指示)した時間のみ行う運用とした。
有給休暇の取得も積極的に推奨しており、直前申請にも対応できる職場づくりをすすめている。
〈取組の結果〉
・シニア人材の活躍
再雇用制度、柔軟な働き方、時間外労働削減、容易な有給休暇取得を可能にしたことにより、シニア人材自身も安心して働き続けられるようになり、業務に打ち込めるようになった。
将来の中核人材の育成も同時に進めていくため、シニア人材から社内の若手社員に対する技術指導等も積極的に行われるようになった。
・シニア人材の再雇用に関する、社内における理解と協力体制の構築もできた。
【IT関連】株式会社ナユタ
〈取組前・きっかけ〉
・システムエンジニアの確保が課題
これまでハローワークや民間求人サイト等を活用し採用活動を行ってきたが、同社が求める提案営業ができるシステムエンジニアの採用に至らず、人材確保に苦慮していた。
新卒と違って中途採用の場合、求職者が自らやりたい業務が明確であるため、同社の求める人材像と合えば採用しやすいと考え、中途にターゲットを絞って採用活動を行うこととした。
福井県人材確保センターから紹介のあった、近畿経済産業局主催の就職氷河期世代向け合同企業説明会「30代・40代からの『正社員ライフ』応援就職・転職説明会」がまさに中途採用がターゲットであり、出展を決めた。
〈取組内容や仕組み〉
・就職氷河期世代人材の採用
合同企業説明会では、求職者の前職の雇用形態にとらわれることなく、一人一人の人物をしっかりと理解した上で採用する方針。その結果、就職氷河期世代のシステムエンジニアの採用に成功した。
・合同企業説明会前に受講した採用力向上セミナーでは、求職者は企業に対して不安や緊張感を感じる可能性があることを再認識。求職者にとって話しやすい面接方法の検討に至った。
・座談会による人材の理解、人材への訴求の促進
採用面接前に社長と同世代社員の2名で、ざっくばらんな座談会形式で求職者と話をする機会を設けた。どのような人物なのか、同社で何がやりたいのかを理解し、任せられそうな業務は何かを探索する機会となった。
面接時には、本人がやりたいことを実現できる会社であることをしっかりと伝え、同社で働く意義や魅力を十分に理解した上の入社につながった。
今後もオンラインを有効活用した採用活動は必須と考える。
〈取組後〉
人材定着に向けた取組
・先輩社員からのOJT教育により、コミュニケーションを十分に取りながら、本人がてがける業務を整理。
・採用後3か月が経ち、現在は営業メインで教育しながら業務に取り組んでいる。今後は、同社の技術をしっかりと理解した上で、提案営業ができるワンアップしたシステムインテグレーター(SIer)としての活躍を期待している。
人材不足を解消するカギは社内環境の見直し
人材不足が慢性化してしまうと企業にさまざまな悪影響を及ぼします。
手遅れにならないためにも、まずは社内環境から見直してみることをおすすめします。
自社に合った正しい方法で見直しや対策を行なってみてくださいね。