働き方改革の必要性とは?目的やガイドライン・企業の取り組みや導入事例を解説
働き方改革が施行されて以降、企業の重要な課題の一つとして各社取り組んでいる、あるいは導入を検討しているのではと思います。
施行された翌年には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大もあり、さまざまな企業でテレワーク化が進みました。
このように、多様な働き方に柔軟に対応していくことが求められる時代に、企業はどのような取り組みを進めていく必要があるのでしょうか。
本記事では、政府が示す働き方改革の目的や、導入のメリット・デメリット、企業の導入事例などを紹介していきます。
働き方改革とは
正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」と言い、日本の労働法改正を行う目的で、2019年から順次施行されている法律であり、「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みの一つです。
働き方改革の目的
日本の人口減少は、あらゆる方面に悪影響を及ぼしていますが、中でも労働力不足は深刻なものです。人手不足により、事業の縮小や倒産を余儀なくされる企業もあり、日本経済の低迷は免れないと言われています。
このように、国力の低下にも繋がる日本の労働力不足を解消し、経済の発展を目指していくことが、働き方改革の目的となります。
働き方改革の必要性
働き方改革が必要となった背景には、大きく分けて3つの問題点があります。
- 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
- 長時間労働の常態化
- 働き方のニーズの多様化
労働力不足に陥る原因は、社会問題や、企業内部の問題など様々ですが、ここでは上記のケースについて解説していきます。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
日本の人口は2008年をピークに減少の一途を辿り、2021年の推計では高齢者人口の割合は29.1パーセントと、超高齢化社会の傾向が顕著です。それに伴ない、15歳から64歳で構成されている生産年齢人口の減少も加速し、2021年には生産年齢人口が総人口の60パーセントを下回りました。
生産年齢人口が減少すると、企業は採用難や従業員の離職が進み、深刻な人手不足に陥ります。そして、人手不足の慢性化により、業績が悪化し、人手不足倒産に追い込まれる企業も少なくありません。
長時間労働の常態化
様々な労働問題の中で、特に問題視されているのが「長時間労働」です。人手不足による業務過多や、「残業をする人=立派な人」とたたえるような社内風土など、様々な理由から日本の長時間労働は常態化し、多くの企業で労働者の精神疾患発症や過労死など、危険な健康被害を招くこととなりました。
働き方のニーズの多様化
働き方の多様化が求められる背景にはさまざまなものがありますが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大の影響は大きいもので、ここから多くの企業で業務のテレワーク化が急速に進みました。出産や育児、介護などを理由に貴重な労働力を失わないようにするために、テレワーク化や時短勤務、副業の自由など、労働者のライフスタイルに合わせた働き方を尊重できるような制度を整備していくことが必要です。
働き方改革におけるガイドライン
働き方改革とは、「一億総活躍社会」実現のための取り組みであることは先述しましたが、働き方改革推進のため、政府が制定したガイドラインは以下の2点です。
- 労働時間に関する制度の見直し
- 雇用形態における格差の是正
これらの措置を講じるとされていますが、具体的にどのような内容になっているのか、以下で説明していきましょう。
労働時間に関する制度の見直し
長時間労働の廃止や年次有給休暇を取得しやすくするといった、労働者のワークライフバランス実現や、働きすぎによる健康被害を防ぐことが見直しの目的となり、具体的には以下の7つのルールが定められています。
ルール | 内容 |
①残業時間の上限を規制 | ◆残業時間は原則、月40時間・年360時間を上限とし、 特別な事情がない限りこれを超えることはできない。 ◆特別な事情があり、労使合意のもとであっても、 ・年720時間以内 ・複数月平均80時間以内(休日労働を含む) ・月100時間未満(休日労働を含む) 上記を超えることは不可。 ◆原則である月40時間を超えることが可能なのは6ヶ月間。 |
②勤務感インターバル制度を導入 | 一定時間以上の休息時間を確保するための制度で、 やむを得ず残業時間が長くなった場合に、翌日の 始業時間を後ろ倒しにするなどをして、労働者が 十分な休息を取れるようにする。 |
③年5日の年次有給休暇取得を 企業の義務に | 有給休暇は労働者側から申し出なければならず、 取得しづらい状況があったため、使用者が労働者の希望を踏まえ 指定した時季に、年5日の有給休暇を取得してもらうことを 企業側の義務とする。 |
④月60時間を超える残業の 割増賃金率引き上げ | 月60時間超の残業割増賃金について、大手企業と中小企業で 割増率に差があったが、大手企業、中小企業ともに50パーセント に定める。 |
⑤労働時間を客観的に把握することを 企業の義務に | 健康維持の観点から、全ての人の労働時間を客観的に 把握することを、法律で義務付ける。 (これまで裁量労働制が適用される人や管理監督者は対象外だった) |
⑥フレックスタイム制を拡充 | 労働時間の清算期間を3ヶ月とし、育児や介護といった さまざまなライフスタイルに合わせて労働時間を調整しやすくする。 |
⑦高度プロフェッショナル制度を新設 | 専門的で高度な知識等を有し、高い収入を得ている労働者を対象に、 時間制労働を撤廃し、成果による報酬を得られるようにする制度。 |
雇用形態における格差の是正
日本における非正規雇用者の平均賃金は、正社員の平均収入を時給換算した場合の6割程度と言われており、同様の業務を行っているにも関わらず、賃金に格差があることが問題視されてきました。
一般的に、家族の育児や介護をしながら収入を得るには、正社員で勤めることが難しく、非正規での働き方を選ぶ人が多いですよね。しかし、待遇面での格差があるために、労働意欲や生産性の低下に繋がっているのです。
そこで政府は「働き方改革の目玉」として、「同一労働同一賃金のガイドライン」を定めました。業務内容だけではなく、勤続年数や能力が同一であれば同一の賃金を支給しなければならず、その他の通勤手当や賞与、福利厚生といった待遇面においても不合理な待遇差や差別的扱いを設けることが禁止されました。
働き方改革のメリット
働き方改革の施行にはどのようなメリットがあるのか、従業員側と企業側それぞれのメリットを見ていきましょう。
従業員のメリット
日本には長時間労働を美徳とするような風習が長く根付いていますが、この問題解決の突破口となるのが働き方改革です。
長時間労働が規制され、有給休暇も年5日を確実に取得できれば、プライベートの時間が確保しやすくなり、資格の勉強や、副業をすることで収入を増やせますし、育児や介護と仕事の両立も捗ります。
企業のメリット
長時間労働が規制されることで、従業員は時間内で仕事を終わらせるにはどうすれば良いかを考えるようになり、生産性がアップします。業務の効率化や品質の向上にもつながりますし、残業が減ることで、人件費や光熱費も必然的に削減できます。
労働時間や有給休暇の取得率が改善されれば、社員の定着率も上がり、優秀な人材も集めやすくなることも大きなメリットです。
働き方改革のデメリット
働き方改革にはメリットだけではなく、当然デメリットもあります。従業員、企業それぞれの視点からのデメリットを解説していきましょう。
従業員のデメリット
長時間労働が規制されるということは、これまで残業で稼いでいた分の収入が減るということでもあります。生活レベルを下げるか、副業などをして他から収入を得なければ、残業していた頃と同じ生活を維持することが難しくなるのです。
また、業務量はそのままに、勤務時間を減らされれば、時間内に終わらなかった仕事を持ち帰ったり、休憩時間を返上して業務に当たったりといったことが発生してしまう可能性もあります。
企業のデメリット
労働時間の制限や、有給取得が進むと、就業時間内や納期までに仕事が終わらなくなる可能性があります。そうした場合、規制対象外の上司へしわ寄せがいき、管理職の負担は免れませんし、効率化に失敗すれば、業務が回らないため受注を制限せざるを得なくなり、結果的に利益を落としてしまうということも考えられます。
また、労働に関するさまざまな法の改正があるため、これらに違反すると懲役や罰金といった罰則が課せられてしまう場合があります。「知らなかった」では済まされませんから、改正された内容をよく把握しておく必要があります。
働き方改革で企業が抱える課題
働き方改革で企業に圧し掛かる課題として一番大きなことは、「不足した労働力をどう補うか」という点です。
長時間労働の規制や有給休暇の取得により、業務が逼迫し、有休で休む人への給料や、その間働いている人への残業代などで、人件費が嵩みます。それでも足りない労働力をシステムで補うため、ツール導入の必要を迫られますが、莫大なコストを捻出することができず、なかなか改革が進まないといった問題もあります。
企業における働き方改革の取り組み
働き方改革を進めていくに当たって、企業の取り組み例を5点挙げます。
- 育児休暇の取得を働きかける
- 労働時間を是正する
- テレワーク化を推進する
- 時短勤務制度を導入する
- 賃金を引き上げる
育児休暇の取得を働きかける
近年、男性の育児休暇取得率も増加傾向にあり、令和3年の厚生労働省の調査では、男性の取得率が13.97パーセントと過去最高でした。しかし、女性の取得率が85.1パーセントであることを考えると、まだまだであると言わざるを得ません。出産が必要な女性と比べると、男性は育児休暇を申請しづらい場合が多いようです。誰かが育休を取得している間、他の従業員への負担が重くならないようなフォロー体制を整えることで、男性も育休を申請しやすくなるでしょう。
労働時間を是正する
単純に残業を禁止しただけでは、仕事の持ち帰りや、サービス残業が横行し、根本的な解決には至りません。仕事が就業時間内に終わらない理由は何かということを探り、適切な対策を考えましょう。例えば、ITツールの導入で業務の効率化を図ったり、無駄な会議を減らしたりといったことです。
テレワーク化を推進する
場所や時間に囚われずに働けるテレワークは、多様な働き方を求める優秀な人材を確保するためにとても有用です。2020年のコロナ禍以降、企業のテレワーク化は一気に加速しました。テレワーク化の推進には、従業員へのノートPCの配布や、ペーパーレス化のためのシステムやツールの導入などのコストがかかりますが、長い目で見た場合に、通勤手当や光熱費といった経費の削減にも繋がるため、積極的に取り組むことをおすすめします。
時短勤務制度を導入する
子育て中の家庭では保育園や幼稚園の送り迎え、要介護者がいる家庭では、病院への付き添いなどが必要です。そのような人を対象とした時短勤務制度があれば、誰でも安心して仕事を続けられますよね。育児や介護と仕事を両立したいと考えている人が、不当な扱いを受けることなく、柔軟な働き方を選べるような社内規定を設ける取り組みが、年々広がりを見せています。
賃金を引き上げる
政府が示す「同一労働同一賃金」のガイドラインに沿って、賃金の引き上げを行いましょう。給料が上がることは、そのまま仕事のモチベーションに繋がります。定期的に給与を見直し、従業員が労働に見合った適正な報酬を得られるよう、取り計らうことが大切です。
働き方改革の導入事例
ここからは、働き方改革にいち早く注目し、取り組みを成功させている2社の紹介をします。
株式会社メルカリ
フリマアプリ「メルカリ」の運営元である株式会社メルカリでは、男性の育休取得率が80パーセント以上。というのもメルカリでは、国からの保障と給与の差額を会社が負担し、育休中の給与を100パーセント保障しているからです。保障内容は女性が産前から産後6ヶ月間、男性がパートナーの産後8週の給与を100パーセント保障するというもの。育休の延長もしやすく、男女ともに平均で2〜3ヶ月程度の育休を取得しているようです。
ブラザー工業株式会社
明治41年創業の老舗機械メーカー「ブラザー工業株式会社」では、従業員のワークライフバランスを支えるあらゆる制度を整備しており、介護や育児との両立を支援することで、従業員が安心して働ける職場作りに取り組んでいます。2011年には、来る大介護時代へ向けて、介護との両立を考えるセミナーを開催し、2015年からは、育児や介護などで出社が難しい従業員を対象に在宅勤務制度を設け、多様な働き方に柔軟に対応しています。
まとめ
日本の少子高齢化はこれからも加速し、企業の人手不足感も更に強まるでしょう。従来の労働条件のままでは、人手不足による業績悪化は免れません。
本記事を読んで「働き方改革」の必要性を理解し、労働環境改善にお役立ていただけましたら幸いです。