日本で人手不足が深刻化する3つの原因|特に深刻化する業界とその傾向とは
日本の企業の将来は、人手不足がさらに深刻化すると予想されています。
人手不足か慢性化しないためにも、企業がとるべき対策を考えておく必要があります。
この記事では、人手不足が深刻化する原因や業界、人手不足化する傾向について紹介します。
2030年までに人手不足はさらに深刻化
パーソル総合研究所と中央大学は2018年10月に、「2030年時点の労働市場における人手不足問題に関する研究結果」を発表しました。
人手不足数は、2017年の121万人から2020年には384万人、2025年には505万人、2030年には644万人という結果になっています。
人手不足数は徐々に拡大し、効果的な対策をしなければ、日本経済の成長を阻害してしまう可能性があるとのことです。
参考:「♯SHIFT(人手不足問題、2030年には644万人まで拡大 最も深刻なのはサービス業)」
正社員・非正社員の人手不足傾向
人手不足を雇用形態別に見たときに、正社員に対する人手不足感が高まっている傾向にあります。
厚生労働省の調査では、雇用形態別の人手不足感は正社員が33%と最も高く、派遣労働者やパートタイムといった非正社員はいずれも15%程度です。
日本で人手不足が深刻化する原因
日本で人手不足が深刻化する原因として、以下の3つが挙げられます。
- 少子高齢化による労働人口の減少
- 都市部への人口が集中
- 業界ごとの有効求人倍率の偏り
それぞれの原因について、詳しく説明します。
少子高齢化による労働人口の減少
日本では、少子化が進み、高齢化の上昇が留まることを知りません。少子高齢化により、労働力となる人口が少なくなることで、必然的に「人材の価値」が上昇します。
都市部への人口が集中
大都市圏である東京を中心に、名古屋や大阪にも人口が集中しているのも問題の1つです。特に東京都心への集中が顕著であり、毎年約10万人〜20万人ほどが地方から東京へ移住しているとも言われています。
業界ごとの有効求人倍率の偏り
IT業界の職種が人気な一方で、肉体労働を伴う業界は人手不足の深刻化が問題視されています。求人数を求職数で割って導き出す「有効求人倍率」が1倍を超えてしまうと人手不足と判断されます。
実際に建設業界では、有効求人倍率が3倍に及ぶ事態となっているのです。
人手不足が深刻な業界
人手不足が深刻な業界は、大きな偏りが見られます。
以下の7つが人手不足の進行により、深刻化している業界です。
- 医療・福祉
- 建設業
- 飲食業
- IT関係(エンジニア)
- 運送業
- 人材派遣・人材紹介
- 宿泊業
深刻化している理由についても、詳しく説明します。
医療・福祉
医療・福祉業界が人材不足であることは、日本の将来においてかなり深刻な問題です。医療・福祉・介護のニーズと従事者数が釣り合っていないという問題は、医療・福祉現場の崩壊にもつながります。
また、従事者数が減少しているだけでなく、待遇の悪さが人材不足の原因となっているでしょう。勤務時間や給与、休日などの待遇面に納得できない職場では離職率が高く、「業務が過酷なのでは?」といったイメージを抱かれてしまいます。
また、新型コロナウイルス感染症の流行により、医療従事者から多くの応援要請が上がりました。人を助けたいという使命感だけでは、仕事を成り立たせるのが難しい現実があります。
建設業
建設業界が人手不足に陥る原因として、「若者層の就職率が低い」というものが挙げられます。極寒や猛暑の中での肉体労働は避けられず、ケガなどの危険を伴う仕事でもあります。そのため、就職を目指す若者層の選択肢から外れやすくなっているのが現状でしょう。
また、給与や補償などの待遇面が改善されない点も、問題として挙げられます。建設業界では日給制が多いことから、天候などに左右されやすく、収入が不安定になる傾向があります。
就職率を上げるためには、「過酷な仕事なのにメリットがない」というイメージを払い除ける必要があるでしょう。
飲食業
飲食業界は他の業者の中でも特に、人手不足が問題視されています。農林水産省のデータによると、飲食業界の人手不足問題は製造業と比べて約2倍です。
現状の問題として、「飲食・サービス業界の離職率の高さ」は無視できないでしょう。飲食業界の離職率は高く、2人に1人が離職してしまうのが現状です。その理由としては、「出産・育児による離職」が15%を占めており、この結果から子育て支援が整っていない企業が多いことがわかります。
また、規定労働時間を超える、超過勤務の多さも問題視されています。
IT関連(エンジニア)
IT技術の進化に伴い市場が拡大しており、人手不足の人口が予想されています。
経済産業省の調査によると、2030年にはIT業界の人手不足が最大で、約79万人になると予想されています。その中で不足すると予想されているのがエンジニアで、専門的な技術が要求される分野です。
高いレベルの業務についていけずに、従業員が余ってしまうことも懸念されています。仕事についていけない、就業ができない人が増加するのはIT業界に限ったことではありません。
人手不足とともに考える必要がある問題といえるでしょう。
運送業
インターネットショッピングの普及により、流通サービス・倉庫作業を含む運送業の需要は急上昇しました。人材不足以外にも、労働者のニーズに対応しきれていない問題点も存在しています。
例えば、個人宅へ配送時に受取人が不在というケースはよくあることでしょう。その場合、荷物を営業所へ持ち帰り、再配達する流れですが、配達員にとってかなりの負担となっています。
運送業は拘束時間が長く、休日も固定でなく取りづらいことが多いため、離職という決断に至る人が多いです。離職を防ぐためには、再配達のリスクを改善しなければなりません。
便利なサービスの周知こそが、人手不足の解決にもつながるかもしれません。
人材派遣・人材紹介
新型コロナウイルス感染症の影響拡大により、経済活動は大幅に減速しました。消費者の需要が下がることで、新たな人材を必要とする企業が少なくなり、雇用ニーズが減ってしまったといえるでしょう。
新型コロナウイルス感染症が日本で大流行する前は、有効求人倍率が1.5倍をやや超える程度の水準でした。1回目の緊急事態宣言が発令された3月には1.4倍に低下し、その後も長引く自粛の影響で、1.1倍を切るほどにまで低下しています。
このような状況では、企業に労働力となる人材を提供する役割である人材派遣・人材紹介業にとっては大きな影響があるでしょう。
宿泊業
宿泊業界の人手不足である原因として、労働環境の厳しさが挙げられます。ホテルや旅館などの宿泊施設では、就業時間が不規則なため、プライベートの時間が立てづらく、深夜勤務が続く場合もあります。
また、宿泊業界の給与は他の業界と比較して高くはありません。労働の大変さに見合っている給与を提示できないケースも多く、このような状況が続くことから労働者は離れていく一方でしょう。
人手不足が深刻化する業界の傾向
人手不足が深刻化する業界の傾向として、以下の2つが挙げられます。
- 休暇が少なく長時間労働になりやすいイメージを持たれている
- 生産性を向上させづらい構造
それぞれ、詳しく説明します。
休暇が少なく長時間労働になりやすいイメージを持たれている
人材不足が深刻化する業界の傾向として、休暇が少なく長時間労働になりやすいイメージを持たれていることが挙げられます。
解決方法として、まずは労働環境の改善から始めてみることをおすすめします。労働環境の見直しは、離職率を減らすだけでなく、求人への応募数を増やすことにもつながります。
生産性を向上させづらい構造
人手不足が深刻化する業界の傾向として、生産性を向上させづらい構造が原因として挙げられます。人手不足の原因は労働力の不足だけではありません。
生産性が向上しづらいと、企業と人材の間で求める能力や資格、労働条件などのミスマッチも考えられるでしょう。これにより起こり得る構造的失業が原因で、慢性的な人手不足の原因となっています。
コロナ禍の影響で人手不足が緩和された?
人材情報サービス「株式会社マイナビ」が実施した「アルバイト採用活動に関する企業調査」によると、コロナ禍の影響で人手不足が緩和された背景が見えてきます。
感染拡大防止対策で休業・時短営業の要請があったため、約9割の業種で人材不足に陥らないという結果になりました。
また、コロナ禍の影響をきっかけにさまざまな働き方や、新生活様式を意識した施策にも注目が集まっています。
人手不足を解消するための対策方法
企業の人手不足問題を解決するための方法として、以下の3つが挙げられます。
- 労働条件の見直し
- 業務のアウトソーシング
- ICT活用
それぞれ、詳しく説明します。
労働条件の見直し
人手不足に悩む中小企業が積極的に取り組んでいるのが「労働条件の見直し」です。仕事を辞める原因や理由として、仕事に対する不満が挙げられることが多いため、見直す必要があります。
「給与や休日などの待遇は正当なものか」に着目し、まずはそこの改善点を見つけていきましょう。従業員にとって良い環境で働きやすい企業になれば、離職率は低下し、求職者の増加にも期待できます。
労働条件を見直したり、職場環境を改善するためには、従業員からのヒアリングが必要です。意見の言いやすい風通しの良い職場や、居心地の良さなどを聞きながら、問題点を発見しましょう。
また、人材が成長するための研修制度や、サポート体制がしっかり整っているのかどうかも重要です。
業務のアウトソーシング
業務が増加し、人手不足を感じる場合は、「業務のアウトソーシング」など外部の力を活用してみるのもおすすめです。業務が回らないタイミングで人手不足だと感じる場合、従業員の実力不足も問題視するべきでしょう。
既存従業員だけで業務をこなすためには、スキルアップや兼任化を図るのも効果的です。マニュアルの作成や見直し、人材の能力やスキルをデータ化などを行い、業務内容において不足している部分を導き出します。
従業員がレベルアップすることで、業務におけるさまざまな問題点が解決するでしょう。また、兼任化が困難な場合は繁忙期や閑散期に合わせながら、人材数を調整するのもおすすめです。
業務が増える繁忙期には、アウトソーシングなどを活用してみてはいかがでしょうか。
ICT活用
社内全体のICT化を進めることで、業務を効率化し、人材が回るようになるケースもあります。人材不足で困っていた企業でも、ICT化を進めたら業績が伸びたという事例もあります。
ICT化が可能な業務は主に、以下の3つが挙げられます。
- 経理・財務・会計業務
- 人事業務
- 受発注業務
上記の中でも人事業務のICT化は、人事担当者の負担を軽減するだけでなく、人材育成にも役立つので、将来的な人手不足の解決・対策にもつながるでしょう。
電子メールやオフィス系ソフトの導入のみがICT化ではなく、ICT活用することでさまざまなメリットを得られます。
人手不足解消のカギは「働き方の柔軟性」と「DX推進」
2030年までに日本企業の人手不足は、かなり深刻な問題と予想されています。
この問題を解決するためには、企業は労働環境の見直しや業務のアウトソーシングといった対策を取らなければなりません。
人手不足が慢性化しないためにも早い段階での対策や取り組みが必要となってきます。