【合同会社ばとん】食料自給率100%への挑戦『縦型オーガニック水耕栽培』で空き家を活かす未来農業
日本各地に増加する空き家問題と、国内食料自給率の向上。この2つの課題に一石を投じるべく、合同会社ばとんの【縦型オーガニック水耕栽培】事業がスタートしました。空き家や空き物件を活用した栽培で、地方創生と持続可能な農業を目指します。代表の小菅氏に、事業の魅力と今後のビジョンについてお話しを伺いました。
空き家活用【縦型オーガニック水耕栽培】事業について詳しく教えてください
【縦型オーガニック水耕栽培】は、弊社の「空き家・空き部屋活用支援」の一環として進めている事業です。設備の導入から、予算に応じた栽培のコンサルティング、作物の販売方法のアドバイスまで、総合的にサポートしています。
一般的な水耕栽培は、平らな水槽にレタスなどの葉物野菜が育つイメージですよね。私たちが取り組んでいるのは、それを縦のパイプにして、肥料を溶かした水を循環させるという仕組みなんです。これが「縦型水耕栽培」と呼ばれるもので、縦にすることで、横型に比べておよそ3.3倍の作物を育てることが可能となります。
さらに、葉物だけでなくイチゴや小玉スイカといった、収益性の高い作物も栽培できます。
市場への卸し方をアドバイスしたり、私たちが作物を買い取って飲食店などに流通させるといったサポートも可能です。
このシステムを空き家や空き物件に導入することで、空き家問題の解決と、国内の食料自給率の向上という二つの大きな課題にアプローチできると考えています。
栽培のコンサルティングというのは、例えばどんなことを行うんですか?
どんな作物を育てるのが良いか、発芽方法、栄養水溶液の濃度調整、pHの管理など、栽培に必要なことを細かいところまでアドバイスを行います。これにより、最適な環境で作物を育てられるように支援しています。
会社を立ち上げた経緯について教えてください
私はもともとIT企業に勤めており、地方自治体のプロモーション事業に携わっていました。地方の魅力を発信する仕事で、これがとても面白くて。特に、南あわじ市のプロモーションに関わったときに「すごくいい場所だな」と思ったんです。ところが、会社がその事業から撤退することになってしまい、他の部署への異動を打診されました。私は地方に向けた仕事というのに非常に面白みを感じていたので、「だったら自分で独立してやってみよう」と、2020年に会社を立ち上げました。
ただ、タイミングがまさにコロナの時期と重なってしまって、当初考えていた形とはかなり違う展開になりましたね。最初は自治体からの受託案件をいくつか受けて実績を積んでいこうと思っていたんですが、コロナでその案件が吹き飛んでしまって……。そこで、「受託型ではなく、自分たちで何かを作ってそれを売っていこう」と方向転換をして、まずは南あわじ市の特産品開発から始めました。
その一環として、これまで廃棄されていたイノシシの内臓を活用した新しいジビエ商品を開発しました。
オリジナル商品を売る事業からスタートされたのですね。今回の【縦型オーガニック水耕栽培】事業を始めたきっかけは何ですか?
もともと空き家が増えていることに対して問題意識を持っていたんです。そんな時に、淡路島の水耕栽培メーカーさんとオンライン商談会で出会いまして、「このシステムを全国の空き家に設置したら、いろいろな課題が解決できるんじゃないか」と感じていました。そのアイデアを温めているうちに、私の会社のある南あわじ市で空き倉庫を借りる機会があり、そこに縦型栽培のシステムを設置して事業を始めることにしました。
どのように事業を展開していこうと考えていますか?
最初は淡路島内での展開を想定していましたが、山口県や愛知県の企業様からも問い合わせを頂いているので、全国的に展開していきたいと考えています。
設備導入にはそれなりの初期費用がかかると思いますが、黒字化できる期間の目安はどのくらいなのでしょうか?
大規模な設備ですと、導入費用が1,000万円ほどかかる場合もありますが、各種補助金等を利用することで費用を抑えて導入することが可能です。
また、小規模であれば、数百万円で導入できるケースもあります。
さらに、東京都の提供する補助金制度などと組み合わせ、より手軽に導入できるようにサポートも行っています。
売上としては、葉物野菜の場合、黒字化には5〜6年ほどかかりますが、トマトやイチゴのような収益性の高い作物であれば、2〜3年で黒字化できる仕組みになっています。
今後、従業員の拡大など会社としての目標はありますか?
もちろんです。特に、南あわじ市での雇用拡大を目指しています。私たちは「受け継ぎ、紡ぐ」という企業理念を掲げ、これまで先人たちが築いてきたものをさらにブラッシュアップして次世代へつなげることを、事業の根幹に据えています。空き家を活用する取り組みも、ジビエ商品の開発もその一環です。人や自然の恵みを余すことなく活かしたいと考えています。
今後のビジョンについてお聞かせください。
私たちの究極の目標は、国内の食料自給率を100%にまで引き上げることです。世界情勢が不透明な中、シーレーン(※)の問題や燃料の高騰など、今後は輸入に頼ることがリスクになる可能性が高まっています。だからこそ、自分たちで食べるものは国内で生産するということの重要性が増してくると考えています。そのため、この縦型栽培が、その一助になればと願っているのです。
また、現在は企業向けに空き物件での導入を進めていますが、将来的には個人が所有する空き家にも広げていきたいと考えています。過疎地域の増加などにより無人化が進む空き家が増え続けていますが、それらを有効活用して収益化できれば、地方の雇用を拡大し、地方創生にもつなげることができると期待しています。
私たちの事業は一見バラバラに見えるかもしれませんが、実はすべて根底で繋がっています。今後は、このビジョンに共感してくれる人々と一緒に、さらに事業を展開していきたいです。事業が安定し、売上が上がってきた段階で、同じ思いを持つ仲間と共に力を合わせて成長していけたら最高ですね。
※シーレーン:
海上輸送路を指し、特に物資やエネルギー資源の輸送に重要な航路のこと
インタビュー企業
合同会社ばとん:https://llcbaton.co.jp/